「補綴(ほてつ)歯科治療は健康長寿に貢献している」

「補綴(ほてつ)歯科治療は健康長寿に貢献している」Info

2022年よりコラムの掲載も開始いたします。

皆様に有益な情報をお届けできればと思っております。

不定期掲載になりますが、コラムもぜひ読んでみて下さい。

では、第1回目のテーマは「補綴(ほてつ)歯科治療は健康長寿に貢献している」

日本補綴歯科学会専門医・指導医である矢谷博文先生に投稿していただきました。

補綴(「ほてつ」と読みます)歯科治療とは,虫歯で欠けてしまった歯や歯周病で失ってしまった歯を被せもの(クラウンとかブリッジ)や入れ歯などの人工物で補う治療のことをいいます.現在,お口の中の状態と全身の健康状態との間には深い関係があることがいろいろと分かってきています.ここでは,補綴歯科治療が健康長寿(自立して健康でいる状態をいいます)にどのように関わっているかについて説明してみたいと思います.

1.咀嚼能力(ものを食べる能力)および現在の歯の数と寿命との関係

これまでに行われてきた大規模な研究により,咀嚼能力が良好なほど,また歯の数が多いほど長寿につながるということが分かってきています.したがって,健康で長生きするためには,できるだけ歯を失わないように大切にすること,また不幸にも歯が抜けてしまっても補綴歯科治療を行って(被せものや入れ歯を入れて)ちゃんと物が噛めるようにしておくことが大切ということになります.ただし,寿命には日常生活活動度,肥満度,喫煙習慣などの因子が大きく影響します.したがって,ただ歯を大切にするだけではなく,日常生活においてよく体を動かすこと,太りすぎや痩せすぎに気を付けること,喫煙しないことも大切になります.

2.現在の歯の数が多いと,また咀嚼能力が高いとなぜ長寿につながるか

近年急速に蓄積されてきた多くの疫学的研究の結果から,歯周病(ししゅうびょう,昔は歯槽膿漏と呼んだ)は心筋梗塞などの心臓血管系疾患の増加を招くというコンセンサスが得られつつあります.重度の歯周病のためにグラグラになった歯は抜かざるを得ないため,歯周病に罹ると歯の数が減ってしまうことは疑いのない事実です.また,現在の歯の数と咀嚼能力のあいだには高い正の相関関係があることも古くからよく知られた事実です.したがって,できるだけ歯の数を多く保ち,高い咀嚼能力をもち続けることは,心臓血管系疾患のリスクを下げることにつながるといえます.

さらに口の中が汚いと誤嚥(ごえん)性肺炎が増加するという両者の因果関係もかなり確かなものとなっています.日本人の死因の第1位はがん、第2位が心疾患で第3位が肺炎ですが,高齢の方だけとりだすと第1位が肺炎です.高齢者の肺炎はほとんどが口の中の細菌を吸い込んで発症する誤嚥性肺炎であることが知られています.したがって,口の中の清掃不良は,歯周病の原因となり,現在の歯の数の減少や咀嚼機能の低下につながるだけでなく,誤嚥性肺炎に罹患して命を縮めることになりかねません.歯の数を多く保ち,高い咀嚼能力を維持することは,呼吸器系疾患のリスクを下げることにもつながります.

また,野菜の摂取不足が心臓血管系疾患,脳血管系疾患罹患およびがんのリスクを高めるという確かなエビデンスが存在し,歯の数が減少すると野菜の摂取量が減少するというデータも存在します.したがって,間接的にですが,栄養摂取状態を良好に保つという観点から,歯の数の減少を防ぐことが長寿につながる可能性が考えられます.

3.補綴歯科治療(入れ歯の装着)が寿命に与える影響

入れ歯を装着して噛み合わせを回復し,咀嚼機能を改善することにより,①誤嚥性肺炎が減少する,②運動機能が向上し,転倒が予防される,③栄養状態が改善し,低栄養が防止されることを示した複数の研究が存在します.

以上のように,お口の中を清潔にして何でも食べられるよう保つこと,万一悪くなってもきちんとした補綴歯科治療を受けてよく噛める状態を保っておくことは,健康で長生きするうえで大切なことといえます.歯が悪くなった時に,症状がないから放っておくのではなく,歯医者さんへ行ってきちんとした治療を受けていただきたいものです.